竹林に囲まれた立派な3階建の建物が見えてくる。

ここは丸子名物・じねんじょを使ったとろろ汁に舌鼓を打つことができる懐石料理店「待月楼」だ。100年以上の歴史があり、美食家や首相経験者など、多くの人々がこの地にわざわざ足を運び、とろろ汁を堪能してきた。

かつて、この場所は旅館だった。この店もまた、「月」の名を冠している。店名のルーツは吐月峰柴屋寺にあるとされている。吐月峰柴屋寺の茶室の名が「待月庵」という名だったのだ。

ここで一度、月を待つということについて考えてみたい。私たちの日常生活の中で、どれだけの人が月を待つという体験をしたことがあるだろうか。おそらく、ほとんどの人が「月をわざわざ待つ」ことをしたことはないはずだ。

そんなごく当たり前の出来事に喜びを見出すことこそ、何よりも豊かなことではないだろうか。この地域に根付く「月を待つ」楽しみは、私たちがとっくの昔に置いてきてしまった感覚を呼び起こしてくれる。


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