山のような谷をゆき
登りながら降りている
深く潜りながら水面に顔を出し
階段の裏と表で世界を行き交う
天井を見上げれば
全てが反転するように
日常と非日常が裏返る
ホテルの中で
再び始まる旅があることを
ゆっくりと手探りで
私たちは知るのだろう
迷いながらそれぞれの問いにハシゴをかけよ
ただし割り切れない感情は奇数とすること
私たちを隔てる国境
目指すほど遠ざかるバスルーム
湯船でひとときの休息をとり
寝室までの道のりは
小さなひとつの旅だった
誰も知らない私たちだけの正方形に
あかりを灯すとき
これまでの時間を振り返り
ふと 安らぎを見出す夜が来る
この滞在という設問
あなたとわたしで線を引く定規
一夜を過ごし 目を覚ます朝
柔らかな答えに包まれていることを
それぞれに証明せよ
(滞在のための方程式)
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このガイドのナレーターは詩人・菅原敏さん。全国各地に宿泊しながらその体験を詩にする活動を行う菅原敏さんが、実際にこのホテルに宿泊することで生まれた詩を収録しています。同じ空間に宿泊しているあなたにはどんな情景が思い浮かぶでしょうか。
菅原敏/すがわら びん
http://sugawarabin.com/