館内に入って右手にある畳の間。その奥に「明神の主が守りなさい、この館を」と書かれた掛け軸があります。そこには、どんな物語があるのでしょうか。

きっかけは、山を切り崩しての増築を考えていたとき。この土地の神様に工事の安全を祈るための地鎮祭をしようとすると、晴れていた空に暗雲が立ち込め、お祭りのために用意していた物がぜんぶ風で飛んでいってしまいました。この不思議な出来事をとある神社の宮司さんに相談したところ、この土地は三体の龍神様が守っていて、その龍神様が怒っていることが告げられました。

というのも、山を崩すというのは植物や動物のすみかを奪うこと。人間の都合だけで山を崩してはいけない、この土地に住まうすべてのものたちにとって癒やしの場所となるような配慮をしなさい、と怒っているというのです。そこで、旅館の主である斎藤家は裏にお社を建てて、三体の龍神様を祀ることにしました。

この掛け軸はその宮司さんからもらったものです。「明神の主が守りなさい、この館を。」その言葉を見るたびにこのときを思い出し、初心に帰る。明神館で働く人たちにとって、そんな大切な存在になっています。

龍神様だけではありません。このあたりは、いろんな神様が湯治に訪れる場所だったと言われています。力持ちの天手力男命は天の岩戸の扉を投げたのではなく、扉を担いでこの地を訪れ、お湯に浸かってゆったりしているうちに岩戸を置き忘れていったのだ、という話も伝わっています。そんな「神様たちの宿」という意味で、この旅館は「明神館」と名付けられたのです。

掛け軸が見える場所から周りを見回してみてください。明神館には「猫の置物」がひそかに置かれています。

というのも、明神館の女将は猫が大好きなのですが、旅館を営んでいる仕事柄、猫を飼うことはできません。そこで、明神館の主人は出張に出かけた際、行く先々で猫の置物を女将のために買い集めてきたのです。

女将はその喜びをお客様と分かち合いたくて、今では大切なお客様に福をお招きする招き猫として、あちこちに忍ばせていると言います。ぜひ皆様も館内に潜む猫の姿を探してみてください。

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