2Fのレストランの隣に黒い廊下が伸びています。その突き当りにこの作品はあります。

松本の石材加工屋から石の可能性を広げている作家・伊藤博敏さん。その作品を見ていると、石とは固いものであるという固定概念が覆るようです。明神館での癒やしの体験も、これまでの旅館のイメージと違うところがあるかもしれません。

たとえば、明神館には決まったお品書きはありません。日々、変化していくからです。ウドも最初は新芽のやわらかい部分を天ぷらにしますが、伸びてくると皮をきんぴらにしたりします。あらかじめ写真を見て、その料理を食べに来るというより、どんな料理が出てくるのかワクワクしながら今日を味わうことが明神館の癒やしのひとつなのかもしれません。

ところで、この石を通して、この旅館の地下まで想像を広げてみましょう。明神館は地層的に大きな岩盤の上に立っています。そのため、松本市内で地震が起きてもこの場所が大きく揺れることはありません。また、その岩盤のおかげで土砂災害が少ない土地でもあります。それでいて、松本は糸魚川―静岡構造線の上、プレートとプレートの境目に位置しています。大地と大地がぶつかりあう場所ですから粉々の土ができやすく、微生物が育ちやすい。そのため、栄養豊富な土壌で植物が育ちやすい場所です。なおかつ標高が高い盆地であるため、朝晩の寒暖差が大きく、紫外線を浴びる量も多いことから、植物は身を守るために成分を体内に蓄えるといわれ、栄養価が高い野菜がとれると言われています。果たして今日は、どんな料理が味わえるでしょうか。

太古の時代にまでさかのぼると、長野はフォッサマグナという深い溝に位置し、海の底にありました。それから約300万年前の火山活動によって一気に陸地になったといわれています。岩盤が大きくて硬いのはそのためで、その表面に粉々の土が乗っています。しかし、すぐ下は大きな岩盤があるため水はけがよく地下に水が流れていきます。ぶどうは水を嫌いますが、このあたりでなぜ育つかというと、水はけがよいからです。そして、岩盤の下に浸透していった地下水は松本市内で豊富に湧き出しています。もとは海の底だったことからミネラルが豊富な湧き水として知られています。

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