五島列島は、うどんが中国から日本へ伝わった「最初の地」とも言われています。
その背景にあるのが、命を賭して海を越えた遣唐使たちの存在でした。
彼らが大陸から持ち帰ったのは、仏教の経典や先進の学問だけではありません。
そのひとつが、食文化。五島うどんの製法もまた、古代中国から受け継がれた知恵のひとつと考えられています。
その特徴は、細く、コシが強く、椿油で手延べされること。
椿は、教会のレリーフにも描かれる、島のもうひとつの祈りの象徴でもあります。
海のミネラルを含んだ塩、島に自生する椿の油、山から引いた清らかな水。
自然の恵みがひとつに合わさり、一本の麺が生まれます。
細いけれど、折れない。それはまるで、この島の暮らしそのもののようです。
かつて、漁や農作業の合間、人々は鍋を囲んで五島うどんをすすりました。
どこででも、誰とでも分かち合える、あたたかな一杯。それは、ささやかな日々の祈りのかたちでもありました。
保存がきき、釜ひとつあれば作れる。
このシンプルさこそが、島に生きる人々の知恵であり、文化です。
今でも、新上五島町の船崎地区では、うどん作り体験ができます。
生地を練り、伸ばし、干す──その所作のひとつひとつに、祈るような静けさと、豊かさが込められています。
こうして受け継がれてきた五島うどんは、祈りとともにある、島の食文化なのかもしれません。