作者との出会いは偶然でした。ある日、地元の人が海岸でゴミを拾う外国人を見かけ、声をかけてみると、その外国人はアートについて話しはじめました。「英語はわからなかったけれど、紹介してもいいですか?」そうして芸術祭のメンバーに届いた連絡が、最初のきっかけでした。その外国人こそ、イーサン・エステス。水族館の研究員として佐渡に滞在していた彼は、海岸に漂着したゴミを使って作品を制作していました。それが佐渡における芸術祭のデビュー作となったのです。

それから年月が経ち、家族を持ったエステスは、今回あらためて家族とともに佐渡を訪れ、この作品を設置しました。巨大な鯨の尾をかたどった彫刻は、漁業関係者から集めた漁網やロープを素材に制作されたものです。設置の地として佐渡が選ばれたのは、島がかねてより海洋ゴミや鯨との関わりを抱えてきたからにほかなりません。

鯨といえば、佐渡ではつい最近も鯨が打ち上げられたことがニュースとなり、過去にはジェットフォイルと衝突する事故もありました。さらに片野尾には江戸時代に漂着した鯨を供養した記録も残されています。鯨は、この島の人々にとって今も身近であり、畏れとともに記憶に刻まれてきました。ここに現れた鯨の尾もまた、その記憶を静かに映しているようです。

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