拝殿の奥に見える本殿は、大正時代になって建てられたもの。それ以前、石上神宮には建物のない聖なる空間──禁足地だけが広がっていました。拝殿の奥に広がる何もない空間こそが、神そのものを祀る「聖なる地」とされてきたのです。こうした「物を置かず、空間を祀る」という信仰のかたちは、日本独特のものかもしれません。そして、この場所には布都御魂剣などの神宝が埋められていると言い伝えられてきました。

時は流れ、明治7年。当時の神職によって禁足地の発掘が行われました。すると、地中から御神体とされるものが姿を現します。この発見を機に、あらためて本殿が建てられ、御神体はそこに祀られることになりました。

かつての日本では、本殿を持たない神社がたくさんありました。祈りとは、本来、形ではなく、目に見えないものに向かう心の働き。この禁足地の前に立ったとき、あなたは何を感じるでしょうか。

何もない空間に、すべてが満ちている──そんな日本の祈りのかたちに、どうぞ心を澄ませてみてください。

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