山の辺の道を進んでいくと、右手に大きな池が見えてきます。ここは、かつて壮麗な伽藍を誇った「内山永久寺」の中心、本堂池です。
この池には、こんな伝説が伝わっています。
時は南北朝時代。後醍醐天皇が吉野へと落ち延びる途中、この内山永久寺に立ち寄ったときのこと。長旅に疲れ果てた天皇の愛馬が、池のほとりで倒れてしまったといいます。天皇は馬のたてがみを撫でながら、必死に回復を願いました。すると、馬はこう語りました。「私はもう力尽きました。ですが、この池に身を変え、魚となって、あなたの旅の無事を祈り続けましょう。」そう言い残し、馬は静かに息を引き取りました。
やがて、この池には「馬の顔をした魚」が泳ぐようになったといいます。その魚は「ワタカ」と呼ばれる日本固有の淡水魚。草を食べる習性があることからも、馬魚と呼ばれています。
本堂池は、もともと仏教の「浄土」をあらわすためにつくられた池。蓮の花が咲き、かつては水面の向こうに大きな本堂が建っていたといいます。池に映る空や緑、鳥の声、風のさざめき。自然そのものに、仏の世界を重ね合わせた、そんな信仰の姿がこの池に映っているかもしれません。