天理参考館は、世界の生活文化がわかる博物館です。国内外から集められた民俗資料や考古遺物、約30万点が収蔵されています。参考館の創設は、昭和5年。当時の天理大学は外国語学校でした。「言葉だけでは真の交流はできない。その土地の風俗や文化を知ることが、心を通わせる第一歩だ。」そんな思いから、実際に使われていた生活道具を集め始めたのが、この博物館の原点です。

収集の旅は、遠くオリエントや中国にもおよびました。たとえば、北京の古い看板。居酒屋に入り、「すみません」「いらっしゃい、何にしましょう?」「あの、この看板をください」予想外の言葉に、現地の人たちは「こんなものを買ってどうするんだ」と笑ったと言います。それでも、新しい看板を作る費用を払い、古い看板を譲ってもらいました。そんなふうに、日々の暮らしで手垢にまみれた道具を集めていったのが、この博物館。その後、中国では文化大革命が起こり、当時の看板は軒並み消えてしまったといいます。看板といえど、そこには人々の暮らしが映し出されている。今となっては貴重な資料です。

この博物館の展示は、アイヌの人々から始まりますが、参考館に並ぶ品々は、生活に根ざした祈りの記録でもあります。それは、文字に残ることのなかった、無名の人々の歴史でもあります。国を動かした英雄や、戦いに勝った者たちの物語──いわゆる「勝者の歴史」には、決して記されることのなかった日々の営み。ここでは、そんな小さな祈りの積み重ねを、そっと掘り起こすように、展示が広がっています。

旅を終えた今、ぜひこの参考館を歩いてみてください。石上神宮から内山永久寺跡へと歩いてきた、祈りの道。その道が、世界のさまざまな土地にも、違うかたちで続いていることに気づくでしょう。

日本は、シルクロードの最果てに位置する場所。日本のことは、日本だけではわからない。さまざまな文化が交錯してきたこの地だからこそ、私たちは、自分たちの祈りのかたちを、より深く見つめることができるのです。

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