井伊直弼は埋木舎で何を勉強していたのでしょうか。茶道や和歌、禅、能に始まり、国学、兵学、詩、居合術、弓道等、様々な教養・勉学、武術の稽古に励んだのです。その中でも特に力を注いでいたのが茶道です。直弼は石州流を中心に学びましたが、これまでの流派では自分の思想を表現できないと、31歳の時に新しい流派を立ち上げ、その「入門記」ではこのようなことが語られています。
「茶道は心を修練する術である」
「真の茶道とは貴賤貧富の差別なく自然体で常時心静めて喫茶する修行である」
「快楽に耽ったり金持ちの道楽となって道具や茶室が贅沢になっているのは邪道である」
これらの教えは当時としては革命的で、埋木舎の質素な暮らしの中で豊かな心を探究してきた直弼の人生観が表れています。
有名な「一期一会」という四字熟語の生みの親も直弼です。また「独座観念」と「余情残心」が重要と説いたのも直弼です。もてなす側も、もてなされる側も、お互いに名残を惜しみつつ別れの挨拶をし、主人は客の姿が見えなくなるまで見送ります。それから茶室に戻って炉の前に座り、先ほどまでの茶会が一期一会の出会いであったことを観念し、静かに一人、茶を立てながら思いをめぐらします。この「余情残心」「独座観念」の重要性を説いているのです。
直弼は当時としては珍しく、女性を含む身分や貧賤の差別なく客人を茶会に招いています。直弼に招かれた人たちは、直弼と過ごした時間をどのように振り返っていたのでしょうか。