井伊直弼はこの茶室を「澍露軒」と名付けました。法華経の「甘露の法雨を澍ぎて、煩悩の焔を滅除す」からとったもので、雑念を捨て、茶道に打ち込む強い決意が表れています。また、この場所にもともと茶室はなく、直弼が自ら廊下の角を改造してつくったともいわれ、躙り口や床間もない質素な茶室から直弼の形にとらわれない精神が見て取れます。
直弼は茶名として宗観を名乗っており、17名の弟子に茶名を贈っています。大久保小膳は二番目の弟子として「宗保」の茶名を貰っています。
直弼は次のような言葉をも残しています。ひとつひとつの言葉から、あなたが思う直弼像を想像してみましょう。
・茶非茶(茶は茶に非ず)
散りかかる池の木の葉をすくひ捨て 底のこころもいさぎよきかな
・非々茶(茶に非るに非ず)
騒しき軒のあられもないとひそ しづかなる夜の友ならずやは
・只茶耳(只茶のみ)
いずくにか踏みもとむらんそのままに 道にかなへるみちぞこのみち
・是名茶(是を茶と名づく)
現れて見しはこそあれ峯の花 谷のつつじも隔てあらじを
まさに禅問答のような言葉です。直弼は当時の茶道を贅沢な茶室や道具、客人の格にとらわれているとし、もっと素朴で自然体な茶道を、つまり、「物や形」ではなく「心や気」を大切にして質素倹約を守り「侘び」の世界に没入することが重要であると説いています。
あらためて、直弼の言葉と向き合い、その精神を感じ取ってみてください。