井伊直弼は、後に「チャカポン」というあだ名が付けられます。それは茶道のお茶と歌の和歌、ポンは太鼓の音で、能や狂言などの芸事を指しています。どれも達人の域で、さまざまな道を極めた文化人として尊敬の念がこめられています。

ポンといえば、直弼は「狸の腹鼓」という狂言の脚本に参加しています。それはこんな物語です。

──むかしあるところに夜な夜な田畑を荒らす狸がいました。その狸をなんとかしようと、狸を鉄砲で打つのが得意な男がやってきます。その夜、とある狸が男の伯母の尼に化けて、殺生はよくないと説教をします。しかし、そこにワンと犬が吠え、驚いた狸は元の姿に戻ってしまいます。正体がバレてしまった狸はポンと腹鼓を打って逃げ去っていきました。

なんともユーモラスなお話です。あなたはこの物語からどんな直弼像をイメージするでしょう。埋木舎では実際に狸の目撃談もあり、埋木舎時代の直弼のよき友人であったのかもしれません。

直弼は江戸に移ってからも狸の置物を床の間にいくつも飾って楽しんでいました。直弼はこれらの狸をどんな想いで眺めていたのでしょうか。

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