高松の街並みの向こうに讃岐山脈の稜線。また海側を見れば、ぽこぽこと連なる島々が、海の上に浮かんでいます。

穏やかに見えるこの海に、実は日本でもっとも速い潮の流れが潜んでいます。
日本三大潮流──鳴門海峡、来島海峡、関門海峡。いずれも瀬戸内にあります。なぜこんなにも潮が速いのか。それは、瀬戸内海が入り組んだ複雑な地形をしているからです。

狭い海峡を大量の海水が出入りするたびに、海の流れは加速します。速いところでは時速18キロ以上。鳴門海峡では、うずを巻きながら白い渦潮が現れます。まるで海そのものが生き物のように、呼吸し、うねっている。

その潮が、川の栄養や酸素を運び、瀬戸内全体に命を行き渡らせています。速い流れが海底を削り、凹凸のある地形をつくることで、魚のすみかもまた増えていく。
この海の豊かさは、偶然ではなく、自然の仕組みそのものが生みだしたものなのです。

高松港は、そんな瀬戸内海を往来する船にとって、要の港でした。江戸時代には松平氏が治める城下町として栄え、海に面し、海水の堀に囲まれた全国でも珍しい海城・玉藻城が築かれました。近代になると鉄道と結ばれ、四国の玄関口としてにぎわいを見せます。現在も港の周辺には、香川県立アリーナや大型ショッピングビル、ホテルが建ち並び、四国最大の港町として多くの人を迎え入れています。小豆島をはじめとする瀬戸内の島々へは、フェリーや高速船が行き交い、近年では海外からの大型クルーズ船も寄港するなど、その風景はますます多彩になっています。

今、あなたが乗っているフェリーもまた、数百年にわたって続く「人と物の流れ」の延長線上にあります。

海を渡るとき、人はいつも「この先に何があるのだろう」と思いを馳せてきました。
山が沈んでできた海。その海を縫うように走る潮。その潮に導かれながら、船旅をお楽しみください。