一説では、源平合戦で射られた扇がこの島に漂い着き、「おうぎ島」と呼ばれたものがなまって「おぎ島」になったといわれています。
島の外周は7km。急な斜面に家々が折り重なるように建ち並び、石垣が支えています。
この石積みの集落こそが男木島の魅力。
階段をのぼり、迷路のように入り組んだ細い路地を歩けば、どこからともなく島の猫たちが顔を出し、旅人を出迎えてくれます。
島の北端に立つのは、男木島灯台。
白く塗られていない御影石造りの灯台は、日本でも数少ない存在です。
明治時代に完成して以来、100年以上にわたり、この海を行き交う船を見守り続けてきました。
山中には「ジイの穴」と呼ばれる洞窟も残ります。
桃太郎伝説では鬼の副将が逃げ込んだ場所とされ、不老長寿の水が湧くと伝えられてきました。
そして現代の男木島は、瀬戸内国際芸術祭の舞台としても知られています。
狭い坂道や空き家を活かしたアート作品は、迷路のような集落そのものを美術館へと変えました。
初開催のときには、1日に1000人近い観光客が訪れ、島が沈んでしまうのではと思うほどだったといいます。
小さな島に、新しい風が吹き込む。
けれど、その根っこには、石を積み重ね、海とともに生きてきた人々の暮らしがあります。
フェリーの窓から見える男木島の家並みは、まるで海を背に寄り添い合っているかのよう。
伝説と歴史、そして現代アートが折り重なるこの小さな島は、瀬戸内の多様さそのものを映し出しているのです。