男木島と豊島のあいだ、その向こうに、穏やかな稜線を描く島が見えてきます。
それが直島。今では「世界で最も有名なアートの島」とも呼ばれる場所です。
島のシンボルともいえるのが、草間彌生が手掛けた大きな黄色い「かぼちゃ」のオブジェ。
建築家・安藤忠雄が設計した地中美術館・直島美術館やベネッセハウスをはじめ、建築とアートが融合した施設が島のあちこちに点在しています。
また、島に残る古い家屋や寺社を改修し、いまも人々の暮らしが続く町並みにアートを溶け込ませた「家プロジェクト」は、直島ならではの風景をつくり出しています。
けれど直島の物語は、決してアートだけではありません。
直島は古来より農耕には向かない土地でした。
けれどその代わりに、塩づくりや漁、交易で暮らしをつないできました。
ときには水先案内人として、ときには水軍として、海を渡る者たちを導いたのです。
戦国時代には水軍のリーダー格であった人物が直島城を築き、城下町を整備。
彼はキリシタン大名としても知られ、豊臣秀吉のもとで活躍しました。
その後、島は天領となり、江戸時代には廻船業や人形浄瑠璃でにぎわい、瀬戸内の大動脈を支える存在となっていきます。
いまの直島に息づくアートもまた、この「海に生きてきた島」の歴史と無縁ではありません。
長い時間をかけて育まれた土地の記憶と重なり合いながら、新しい文化として花開いているのです。