小豆島と豊島のあいだ、波間にひっそりと横たわる小さな島があります。
それが小豊島(おでしま)。人口はわずか10人ほど。病院もスーパーも、自動販売機さえありません。
けれどこの島は、瀬戸内の食文化を支える特別な役割を担っています。
小豊島の最大の特徴は、なんといっても牛。
人より牛のほうが多く暮らしている島です。
2軒の畜産農家が400頭を超える肉牛を飼い、ここで育てられた牛は「小豆島オリーブ牛」として全国へと出荷されていきます。
その飼料には、小豆島のオリーブの搾りかすが混ぜ込まれています。
オリーブの香りをまとった飼料で育った牛は、柔らかく上質な肉質を生み、瀬戸内のブランドとして知られるようになりました。
名前こそ「小豆島オリーブ牛」ですが、その多くはこの小豊島で育てられているのです。
牛の堆肥は家庭菜園にも使われ、野菜は驚くほどよく育ちます。
島にスーパーはなくても、自分たちの畑が冷蔵庫代わり。
自然と人と牛が寄り添う暮らしが、今も静かに営まれています。
小豊島へ行く船は1日1往復。観光地のように気軽に訪れることはできません。
けれど、もし海上で「牛マーク」のついた特別な運搬船を見かけたら、それは小豊島から牛を運ぶ船かもしれません。
14頭ほどの牛を乗せ、静かな海を進むその姿は、この島が確かに“牛の島”であることを物語っています。