この建物は、「布蔵」と呼ばれています。
名前のとおり、布を大切にしまっておくための蔵です。
ここに収められてきたのは、
奈良でつくられた麻の布──奈良晒。
麻は、日本では縄文のころから使われてきた、
とても古い繊維なんですよ。
木綿が広まるよりも前、
人々の暮らしを支えていたのは、この麻の布でした。
畑で麻を育てて、茎から繊維を取り出して。
それを細く裂いて、くるくるより合わせて、糸にしていく。
そうしてようやく、機にかけて布になります。
植物が、布になるまで。
そのあいだには、本当にたくさんの手仕事が重なっています。
ようやく織り上がった布は、この布蔵で大切に守られてきました。
そして、ときには特別な場所へも届けられます。
中川政七商店の奈良晒は、伊勢神宮にも納められてきました。
その伊勢神宮には、11代中川当主からのこんな手紙が残っているそうです。
「ネズミに生地の耳をかじられたので、納期が遅れます。」
三百年のあいだには、そんな出来事もありました。
あの夜、ネズミたちの足音が走ったのは、この布蔵のあたりだったような気がしています。