いまでは多くの人が登る富士山ですが、昔はそうではありませんでした。
富士山は、登る山ではなかったのです。
人々は山のふもとからその姿を見上げ、ただ手を合わせて祈りました。
なぜなら、この山には神がいると信じられていたからです。
富士山の神は、浅間大神(あさまのおおかみ)。
火山の力を鎮め、大地を守る神として古くから信仰されてきました。
人々にとって富士山は、自然の中でもとりわけ特別な存在でした。
山は空へ向かってまっすぐに伸び、その頂はいつも雲の上にあります。
まるでこの世界と神の世界をつなぐ柱のような姿です。
そのため昔の人たちは、山に登るのではなく遠くからその姿を拝みました。
これを「遥拝(ようはい)」といいます。
つまり富士山とは、近づく山ではなく祈る山だったのです。
しかし時代が進むと、人は少しずつこの山へ足を踏み入れるようになります。
なぜ人は、神の山へ登るようになったのでしょうか。
そこには「山岳信仰」という新しい祈りの形が生まれていました。