100年後。
私たちが生きた証は、何によって語られるのでしょう。
推し活グッズでしょうか。
マスクとアクリル板でしょうか。
あるいは、シールでデコレーションされたケータイかもしれません。
今の私たちには、どれもありふれたものに見えます。
けれど100年後、それらはもう、この世界から消えているかもしれません。
天理参考館が集めているのは、そういうものです。
きらびやかな宝石でも、王の遺産でも、美術品でもありません。
ここにあるのは、名もなき人々の、生きた痕跡です。
この館の創設者、中山正善は、こう考えました。
言葉を覚えるだけでは、人間はわかりあえない。
相手がどんな暮らしをし、どんな風習の中で生き、何に祈っているのか。
そこまで知って、初めて本当の交流が生まれる——と。
そして、こう言いました。
「きれいなものを集めるな。手垢にまみれたものを集めろ」
この館には、現在およそ30万点の資料が収蔵されています。
その中には、すでに現地から失われてしまった文化もあります。
たとえば、台湾の少数民族の伝統的な生活文化。
後に現地で保存しようとしたときには、すでに失われていたものもあった。
けれど、ここには残っていた。
見捨てられ、消えていくはずだったもの。
だからこそ、ここにしかないものがあります。
足元を見てください。世界地図が、床一面に広がっています。
このガイドでは、世界中から集められた展示品の向こうにいる「人」を見ていきます。
どんな暮らしをしていたのか。何を恐れ、何を願い、何に祈ったのか。
答えを、ガイドが教えるわけではありません。
けれど旅の終わりには、遠い異国の物たちが、どこか自分自身にも重なって見えてくるかもしれません。
それでは、天理参考館の旅を始めましょう。