紫は、古くから「特別な色」でした。
古代ローマでは皇帝の色。
日本でも、もっとも位の高い色のひとつでした。
理由は、単純です。
この色は、とても手に入りにくいのです。
このスカートは、メキシコ・オアハカ州に伝わる「貝紫染め」で作られています。
使うのは、ヒメサラレイシ貝。
この小さな貝の体内には、ごくわずかな分泌液を出す器官があります。
その液を糸に染み込ませ、太陽の光にさらすと紫に染まります。
面白いのは、最初から紫ではないことです。
貝が出す液は、ほとんど透明。
それが太陽の光を浴びて、少しずつ紫へと変わっていくのです。
けれど、この染色は簡単ではありません。
貝がいるのは、波の荒い岩場です。
糸を染めるためには、何度も海へ入り、何匹もの貝から、ほんの少しずつ液を集めなければなりません。
時には、波にさらわれ、命を落とす人もいました。
実は、この染色には、もうひとつ大切な意味がありました。
かつてこの地域では、結婚を控えた新郎が海へ向かい、数十日かけて糸を染めたといいます。
そして、その糸を受け取った新婦が、自らスカートを織るのです。
男が染める。女が織る。二人で、一枚の婚礼衣装を作る。
それは、ただの分業ではありません。
あなたのために、命がけで海へ入る。
あなたのために、その糸を一本ずつ織る。
愛とは、言葉だけで証明するものではない。
時間を差し出し、労力を差し出し、自分の命の一部を差し出すことなのだと、この布は語っているようです。
しかも、この紫は、簡単には褪せません。
むしろ、太陽の光を浴びるほど、色は深くなっていくといいます。
まるで、愛そのもののようです。
時を重ねるほど、深くなるもの。
この一枚の布に織り込まれているのは、色ではありません。
誰かを想い続けた時間そのものなのかもしれません。