ある日、ひとりの少年が、大人になります。
誕生日を迎えたからではありません。
一定の年齢に達しただけでも、まだ足りません。
子どもの世界を離れ、共同体の一員になる儀礼をくぐり抜けたとき、初めて「大人」と認められるのです。
成人儀礼は、世界各地にあります。
それは、ある意味で「死と再生」の儀式です。
子どもとしての自分が終わり、新しい自分として生まれ変わる。
パプアニューギニアのセピック川流域で、そんな儀礼の場に現れるのが、この巨大な仮面——アワンです。
高さは220センチを超えます。
仮面といっても、顔だけにつけるものではありません。
頭から足元まで、全身を覆う精霊そのものです。
木で骨組みを作り、籐で編み、羽毛や植物で飾る。
上には男性の精霊の顔。下には水の世界に棲む女性の精霊の顔。
二つの世界が、ひとつの身体に宿っています。
「アワン」という言葉には、仮面という意味だけでなく、老人という意味もあります。
なぜでしょう。
この土地では、歳を重ねた者ほど、祖先に近づいていくと考えられていたのかもしれません。
老人とは、ただ年老いた人ではありません。
祖先の記憶を受け継ぐ者。精霊に、もっとも近い存在。
だから仮面を被ることは、精霊になることでもあり、祖先の力を宿すことでもあるのです。
儀礼の場で、アワンは現れます。
踊り、威嚇し、少年たちに教訓を与える。
時には女性や子どもを叱り、悪い行いを戒めることもあります。
少し、日本のナマハゲに似ていますね。
遠く離れた秋田とパプアニューギニア。
文化も言葉も違うのに、なぜこんなに似ているのでしょう。
もしかすると、人間はどこでも同じなのかもしれません。
見えないものを畏れ、大きな存在を想像し、恐怖を通して、大切なことを学ぶ。
精霊を信じる心は、特別なものではありません。
それは、人間がずっと持ち続けてきた、畏敬のかたちなのです。