石には、「目」があります。もちろん、私たちのような目ではありません。石工たちが「石目」と呼ぶ、石の割れやすい方向のことです。
不思議だと思いませんか。石は、どこから力を加えても、同じように割れそうに見えます。けれど、そうではありません。同じ花崗岩の塊にも、割れやすい方向と、割れにくい方向があります。
その理由は、石の中にあります。花崗岩は、地下深くにあったマグマが、長い時間をかけてゆっくりと冷え、固まってできた岩石です。その内部には、私たちの目にはほとんど見えない、小さな亀裂があります。その亀裂の向きや入り方などによって、石には力を加えたときに割れやすい方向が生まれます。それが、「石目」です。
面白いのは、昔の石工たちが、顕微鏡で石の中を見ていたわけではないことです。目の前にあるのは、ただの岩肌。それでも経験を積んだ石工は、石の表面を観察し、その性質を確かめながら、どちらへ割るべきかを見極めてきました。
そして、石目に沿って「矢穴」と呼ばれる小さな穴を並べます。そこへ、「矢」と呼ばれるくさびを打ち込んでいく。並んだ矢に少しずつ力を加えていくと、その力が石の中へ伝わっていきます。やがて、一本の亀裂が走る。あれほど巨大だった岩が、人間の思い描いた線に沿って割れていきます。
ただし、石工が見ているのは、石目だけではありません。傷や不純物を見極めながら、どこへ力を加えれば、思い描いた形に割れるのかを考えます。ときには矢穴の数を増やし、石目に逆らって割ることもあります。
石の性質を読みながら、必要な形へ割っていく。石目を読み違えれば、余計なひびが入り、せっかくの石が使えなくなることもあります。
では、入口で触れた、あの石にも「石目」はあるのでしょうか。もちろん、あります。あなたが触れた小さな石にも、かつて巨大な岩の一部だったころから続く、割れやすい方向があります。
目には見えなくても、石の中には確かに道筋がある。石は、見えているものだけでできているわけではないのです。