この着物は麻でも絹でもない。「米」と「糠(ぬか)」でできている。
その素材や色に安心感を覚えるのは「食べもの」という身近な素材であることも理由のひとつだが、注目すべきはその用途。地震や洪水からの避難時にシートや仕切り、衣服としても使えるよう開発されたからでもあるだろう。
描かれた「十日町模様」はオリジナル。火焔型土器に見られる螺旋模様をツタが絡みあう唐草模様に見立て、さらに織物の伝統素材である苧麻(ちょま)の葉を組み合わせた柄になっている。
まさに越後妻有の縮図。この地域に根付いた文化が文様となり、人を包みこむのだ。
そして、アートはあなたに問いかける。
越後妻有のような雪国は冬に農業ができない。では、どうやってお金を稼ぐのか。副業として換金率が高いのが織物。とくに、越後妻有は冬でも湿度が高く、丈夫で高品質な麻を織るのに適していた。
その技術は絹織物にも受け継がれ、春夏秋は養蚕が盛んにおこなわれ、冬になると「出織三千軒」「ガチャ萬」と言われるほど、織機の音が町中に鳴り響いていたという。大地の芸術祭には古民家を使ったアート作品も多いが、そういった場所を訪れた際には、織物をしていた名残がないか探してみてほしい。