作者を中心とする調査員が、越後妻有の集落でホームステイ。生活をともにすることで発見したエピソードと、現代の民俗資料を展示している。
たとえば、「梁の上の油絵」を紹介しよう。
その家の奥様の趣味は油絵だった。しかし、なぜか「梁の上」に飾られていた。その理由は、植木職人である父親が木から落ちてしまい、病気になり、うつむきがちになってしまったから。奥様はそんな父親に「上を見上げてほしい」と願って油絵を高い場所に掲げたのだった。
この話には続きがある。翌朝、調査員が目を覚ますと、奥様が朝ごはんをお盆に乗せて運んできてくれたという。そのとき、調査員は二度見した。油絵のキャンバスをお盆に使っていたからだ。奥様の飾らない人柄があらわれているようであるが、ここには「お盆になったキャンバス」も展示されている。
この作品が「泊物館」たる由縁はここにある。展示されているのは物ではなく、物語なのだ。
そして、アートはあなたに問いかける。
戦後、深刻な食糧難にあった日本では「農地開拓」がおこなわれた時代があった。耕した土地は自分のもの。その大義名分をバイタリティーにして荒野を開拓していったのだ。
越後妻有にも多くの開拓者があらわれたが、この地域は縄文土器の宝庫である。農夫は思いがけず「縄文土器」を発掘してしまうこともあった。本来なら政府に届け出るところだが、そんなことをしていると、せっかく耕した土地が調査のため立入禁止になってしまう。悩んだ末に農夫は、土器を割って畑に埋めた。見なかったことにしたのである。
誰が農夫を責めることができようか。この話もまた調査員が民泊をして、お酒の席で聞かせてもらったエピソード。
旅先で地元の人と言葉を交わす。意気投合して自宅に招かれる。お酒を交わしながら身の上話をする。そうして生まれた物語は、旅人にとっても宝物。あなたも旅の途中で、泊物館に展示するにふさわしい物語を見つけるかもしれない。