今でこそ公立図書館が普及し、本は無料で借りることができる。しかし、図書館ができ始めたころは、お金を払って本を借りるのが一般的だった。そのころ本はとても高価で、学生や一般人が本を買うことはかなり難しかったという。それは江北図書館を創立した杉野さんも同じだった。彼は滋賀で育ち、弁護士を目指して東京の学校に通っていたが法律の本を買うお金はなかった。
ある日、杉野さんは東京の御茶ノ水近辺を歩いているとき、図書館という施設を見つける。当時は全国的にも図書館はほとんどなく、杉野さんも図書館というものを知らなかったそうだ。入ってみると1日1銭5厘で好きなだけ本が読めるという。そこには法律の本もたくさんあった。杉野さんは感激し、毎日毎日通いつめ弁護士の試験に合格したという。この経験がきっかけで、図書館が自分の故郷にもあれば、「若い人にもっと勉強の機会を与えられる。自分が成功したら図書館を作りたい」と思ったという。そうして杉野さん個人の本をはじめ、多くの人から本を寄贈してもらってできたのが、この江北図書館なのだ。そして、青少年のために、開かれた図書館でありたいとの思いから、高価な本を無料での貸し出すことにしたのだった。
図書館に入ったら、本棚を眺めて、気になった本を手に取ってみてほしい。そして、「どうして歴代の館長は、その本を図書館に置いたのだろうか?」と考えてみてほしい。
歴代の館長は、若い人たちが幅広い教養を身につけてほしいという想いを抱いていた。そしてその想いは、選書に現れている。開館当時の日本は文明開化の機運が盛んな時期だった。そのため当時の館長らは、法律や経済、哲学や思想、農業や林業、日本や世界の歴史、文学や芸術など多分野にわたる専門書をそろえていった。館内にある本にはすべて、選ばれた理由があるのだ。そして近年は大人向けの本はもちろん、子ども向けの本にも、グローバルな視点でローカルを理解できるよう、地元に関連する本も選んでいるという。
「子どものころから世界のこと、日本のこと、日本の中の地元のことを学んで、多様な価値観を理解し、世界で活躍できるような視点を養い、様々な面で輝く人間になってほしい。それが設立者杉野さんの高い志をひきつぐことでもあるんです」、と現理事長の冨田光彦さん。
時代に合わせて、本に求められるものは変化していく。図書館の本は売れる本ではなく、地域の人に読んでほしい、身につけてほしいという意志が込められた本なのだ。一世紀を超えて受け継がれてきた館内の知の林をさまよいながら、その想いを感じてほしい。
公益財団法人江北図書館
滋賀県長浜市木之本町木之本1362
開館時間:火曜日~土曜日 9:30~17;00
第2・第4・第5日曜日 9:30~14:00
休館日:毎週月曜日、第1・第3日曜日 及び 祝日
年末・年始 (12月29日~1月4日)
お盆 (8月13日~15日)
Tel/Fax:0749-82-4867