【展示「萩のみる夢」、音声ガイド1番「文鳥たちのみる夢」をご利用いただき、まことにありがとうございます。
このガイドは、建物の中二階踊り場で聞くことをおすすめします。
それでは音声ガイド1番「文鳥たちのみる夢」をはじめます。】


ここにいると、いろんな音がきこえる。


朝。
外の門が開く音がする。ぎぎ、ぎーっと、少しさびている鉄の音。
それがこの建物の、朝のはじまりの音。
そのすぐ後に、チリン。と鈴の音。
入り口のドアにはベルがついていて、誰かが来ると、チリリンっと音がする。
いちばんのベルで入ってくるのは、カフェの朝の当番の人。毎朝、7時半くらいにやってくる。
こっちを見て「おはよう」と言うときもある。

その後は、電気のスイッチを押す音、建物のあちこちでパチンとはじける。
蛇口から水を出す音、鍋を火にかける音、何かを切る音。
そして朝の音楽がかかる。

少しすると、ドアのベルが鳴る。そのあとにガラスの引き戸を引く音、ガラガラ。
チリリン、ガラガラ。「おはようございます。」
朝はその繰り返し。たまににぎやかにもなるけど、たいてい、朝は静か。

とても、静か。


10時半をまわると建物の中がざわざわしはじめる。
野菜、果物、お肉……たくさんの食べ物が入った段ボールや、大きなビニール袋をかかえた男の人が、「おはようございます!」と言いながら、次々にやってくる。

12時になる。
建物が一番にぎやかになる時間。
チリリン、ガラガラ、「こんにちは。」は、鳴りやまない。
水の音や火の音、お皿のカチャカチャという音も、鳴りやまない。
たくさんの声。
注文をする男の低い声、女たちの笑い声、子どもの泣き声。外国の言葉。

いろんな人がここの前にもきて何か言う。
「本物!?」「生きてる?」


「生きてます。」


……そして夜までいろんな音が続く。


大きなスーツケースを転がす音。
二階を色んな靴が歩く音。
昼の音楽。
建物のあちこちで鳴るカシャっというシャッターの音。
外を走る車の音。
自転車のベル。
トラックがバックするピーピーという音。
何か叫びながら走り抜ける子どもたちの声。
外を飛ぶ鳥たちの声。


夜、9時をまわると
椅子やテーブルを動かすガタガタという音が建物に鳴り響く。
そして掃除機の大きな音。夜の音楽がブツっと途切れる。
電気のスイッチを押す音、建物のあちこちでパチンとはじける。
当番の人が何か話しながらガラスのドアを出て行く。
チリリン。
そして、ぎぎ、ぎーっと、少しさびている鉄の音。
ガシャン。


その後は、とてもとても静か。

自分の声と、羽の音だけが聞こえる。


【以上で、音声ガイド1番「文鳥たちのみる夢」を終わります。】

[テキスト:稲継美保 声:山崎朋]

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