【展示「萩のみる夢」、音声ガイド3番「庭のみる夢」をご利用いただき、まことにありがとうございます。
このガイドは、建物の外、庭に出て聞くことをおすすめします。
それでは音声ガイド3番「庭のみる夢」をはじめます。】
庭は思った。もう長いことここにいるが、ここから見える景色も、ずいぶん変わった、と。
自分が、ここにこうして庭として存在し始めたのは、いつだったか?
記憶もないくらい昔だった気もするし、ついこの前だった気もする。
庭はふと、一本の木のことを思い出した。
そいつは「トネリコ」と呼ばれていた。
そいつは、無口だった。若い植木屋の女性に連れて来られた。
植木屋の女性は、そいつとは対照的で、おしゃべりが好きなのか、歯を見せてよく喋った。
そして、「トネリコ」と庭は、ともに過ごすことになった。
「トネリコ」は、ただ黙々と、日の光を浴び、水を吸った。
そして、ただニョキニョキと伸びた。
それはもう、どんどん伸びるから、庭にも手に負えなくなった。
終いには塀を超えるほど伸びた。
ある日、根っこが土を離れて、どこかへ旅立った。
庭は思った。あいつは、達者にやっているだろうか、と。
「トネリコ」が旅立ってしばらくして、あの植木屋の女性がやって来た。庭の手入れをするためだ。
植木屋の女性は、中年になっていたが、相変わらず歯を見せてよく喋った。
ただ、手入れをするときは、黙々と手を動かして、その顔は真面目だった。
庭は思った。なんだか、あの「トネリコ」と、よく似ている、と。
【以上で、音声ガイド3番「庭のみる夢」を終わります。】
[テキスト:東彩織 声:橋本和加子 音楽:角銅真実]