【展示「萩のみる夢」、音声ガイド4番「岡倉天心のみる夢」をご利用いただき、まことにありがとうございます。
このガイドは、建物2階、窓から外を眺めて聞くことをおすすめします。
それでは音声ガイド4番「岡倉天心のみる夢」をはじめます。】


うたた寝をしていたら、久しぶりに夢を見た。
知らない窓辺に立って、そこから私の住まいを見ていた。

私の住まいは更地になっていた。家と家との間に、ぽっかり空いた空き地である。
門は取り払われ、育てていた庭の木はなくなって、おまけに妙な形の白い小屋が建っている。
小屋の中にちらっと見えるあれはもしかして、便器だろうか。
我が家の玄関に便所が建っている。もちろん便所は大切な住まいの一部だが、玄関はショックだ。


私は美術の教師をやっている。
徳川の時代が終わった今、文明開化の荒波の中で、日本の美を守り、若者に伝える。それが私の仕事だ。
伝える場がなかったので、自分で学校を作った。そこで私は校長をやっていた。
いろいろあって辞めさせられてしまったが……。
今はこれからの日本の美術を考えるための、研究所を作っている。私の住まいがその拠点である。
今の私に生徒はいないが、魂は永遠に教師だ。


私の目は知らない窓辺を離れて、便所の脇に降り立った。振り返る。
今まで、私が立っていた、二階建ての屋敷が、そびえている。

黒い。壁には大きく文字が描かれている。アルファベットだ。
H、A、G、I、S、O、ヘギゾ。
私はアメリカを視察したこともある。門構えの立派な様子から察するに、ミスター・ヘギゾなるお抱え外国人の邸宅であろう。ネームプレートをでかでかと飾るとは、いかにもヨーロッパらしい豪快さだが、邸宅の趣味は驚くほど日本的だ。
私の住まいは取り壊されて便所になるが、たとえばミスター・ヘギゾの邸宅の趣味に、私は何か良い影響を与えただろうか。


誰かが門を開ける。その音で、目がさめた。


【以上で、音声ガイド4番「岡倉天心のみる夢」を終わります。】

[テキスト・声:塩田将也]

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