京都では、行き止まりの袋小路を「路地」。通り抜けができる小道を「辻子」という。路地はプライベートな生活空間でもあるためなかなか入りづらいが、田中辻子は通り抜けができるぶん入りやすいかもしれない。が、あなたにはこの場所がわかるだろうか。写真ではなくGPSを頼りに探してみてほしい。

ここもまたトンネルを抜けると別世界──だった。狭い道の両側に長屋がズラリと並び、途中、洗濯物が干されていたり、自転車が置いてあったり、京都の暮らしが感じられる風景が続く。何より空。路地を歩くときは空を見上げてほしい。軒続きの屋根の庇(ひさし)が空を切る。そのスカイラインが絶妙で、「なんてセクシーなVラインなのだろう」と路地マニアたちは賞賛していた。

しかし、どうだろう。数年前の写真と見比べてみてほしい。日本では裏路地が失われつつある。あなたが見てきた裏路地の風景は今しか見れない光景だったのかもしれない。しかし、残念がるのはまだ早い。奥のほうに田中辻子の一部が残っている。この道を歩きながら、田中辻子での暮らしを想像してみてほしい。“お醤油を借りにいく距離”とはこのことで、この道の狭さこそが人がコミュニティを形成するのにちょうどいいサイズなのかもしれない。逆に、この道に車が入ってくるようになるとどうだろう。もしかすると向かいの家の人とは疎遠になってしまうかもしれない。そのことが、あなたにも想像できるのではないだろうか。

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