そもそも「浅間神社」とは何なのか。現在でこそ活動を止めているように見える富士山だが、いつ噴火するかもわからない現役の火山である。記録によれば過去1200年間のうちに11回も噴火しており、昔は富士山の神さまが怒って噴火するのだと信じられていた。だから、怒った神様をなだめるために浅間神社を建てた(浅間という字は「あさま」と読めるが、「あそ」や「あさま」は火山を意味する言葉ともいわれている)。そして、さまざまな神事をおこなうようになったのだ。
ところで、この神社には「角行の石」がある。角行とは富士講の開祖といわれる人物。江戸で奇病がはやったとき、「ふせぎ」というお札を飲ませて病気をなおしたことで有名になり、その後、さまざまな修行を積んだ。不眠18000日、断食300日、富士登山128回。さらに極寒の中、裸で30日間もこの石の上で爪先立ちをして過ごした。それも全身から血を吹き出してまわりに引き止められるまでやめなかったという。このような想像を絶する苦行をおこない、苦しんだぶんだけ霊力を得られる。その力を社会がよくなる方向に還元しようと考えていたのだ。
角行の教えは弟子たちに受け継がれていく。ブレイクのきっかけになったのは「身禄」という人物だ。もともと身禄は13歳で江戸に出て働きはじめ、50歳には数店を構えるほどに成功したとされる勤勉な人。しかし、17歳ではじめて富士に登ったころから信仰を深めてきた身禄は、あるとき財産を親類に分け与えて自分はあばら屋に住みはじめたという。そして、油売りの行商をしながら布教をしてまわった。
そして、63歳のとき。身禄は富士山の七合五勺にある烏帽子岩で「即身成仏」を果たした。つまり、宗教的自殺である。自ら厨子=棺桶の中に入って飲まず食わずで死ぬまでの31日間、そばにいた弟子たちは身禄の教えを書きとった。それは「まじないのような行為ではなく、勤勉に働くことこそが信仰につながる」というような身近な教えだった。それが「即身成仏を果たした」というセンセーショナルなニュースとともに知れ渡り、富士講は一大ブームとなったのだ。