この茶屋は約300年前からある老舗である。登山道のはじまりから、次の「馬返し」までの中間地点にあることから「中ノ茶屋」と呼ばれている。

しかし、別名があった。その名も「遊興(幽境)小屋」。幽境とは「あの世とこの世の境」のこと。中ノ茶屋の少し先に小さな橋が架かっているが、そこから先のことを「三途の河原」と呼んでいた。思い出してほしい。富士講の人たちの目的は、富士山頂という「この世」ではない「あの世」の世界に行くこと。一度死んで生まれ変わることである。

金鳥居をくぐって富士山信仰の世界に足を踏み入れたあなたは、次に浅間神社の鳥居をくぐって富士山という聖域に入った。そして、中ノ茶屋の橋を越えたとき。ついに「あの世」への旅立ちがはじまるのだ。

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