宸殿:三千院の由来になった天皇直筆の額

客殿から廊下を渡り、順路に沿って進むと宸殿(しんでん)に着く。宸殿とは門跡寺院特有の建物で、境内の中で最も格式高いものを指し、現在も三千院で最も重要な法要である御懴法講(ごぜんぼうこう)が奉修されている。

御懴法講とは、歴代天皇陛下や皇后、門主の回向(えこう 他者の行なった善行を振り返りつつ、自らを悟りの方向にさしむけること)や国の安泰をねがって行われる儀式。自らの悪い行いを反省して、心の内にある怒りや愚痴などを清める意味でも行われる。この儀式を始めた後白河上皇は、国を治める者の心は清らかでなければならないと考えたのだろう。宮中で儀式を行い、国を治めるためにふさわしい身であろうとした。

御懴法講は三代座主、慈覚大師円仁(じかくだいしえんにん)が中国から持って帰られたものが始まりだ。雅楽と似た楽(がく)の音と合わせる声明法要は現代にも受け継がれている。その旋律はとても優美で耳に心地よいものだ。

御懴法講が行われる宸殿は、京都御所の紫宸殿(天皇陛下が執務や公事を行った御殿)に似せて大正15年に建てられたもの。奥には三千院の本尊である秘仏の薬師瑠璃光如来が、お堂の左の間には歴代門跡の位牌が安置されている。

薬師瑠璃光如来は現世に生きる人々を導き、苦しみから救っている仏様だ。対して、後ほどご紹介する阿弥陀如来は来世に向かう人々を救済する役割を担っている。現世と来世、それぞれ守備範囲が異なるのだ。

特筆したいのは、お堂の正面玄関下に飾られている「三千院」の額だろう。これは江戸時代前期に在位した霊元天皇が書かれたもので、この寺が「三千院」と呼ばれるきっかけになったものだ。

額を見た後に後ろを向けば苔むした庭が見え、すぐに足を運びたくなるが、少し我慢して宸殿の奥に進んでみよう。

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