その昔、中国の福建省に不思議な力を持つ女性がいた。

ある日、彼女は夢を見た。航海に出た父と兄が嵐に遭っている夢だ。思わず手を差し伸べると、父を救いあげることができた。次に兄を助けようとしたとき、現実に引き戻された。夢でうなされていた彼女を母親が起こしたのだ。しばらくすると、父だけが帰ってきた。兄は? と聞けば「船が嵐に遭って奇跡的に自分だけが助かった」というのだ。

──夢で父親を救った女性はのちに「媽祖」と呼ばれ、航海安全の神様として祀られることになる。中国とのつながりが深い琉球でも、媽祖は「天妃様」と呼ばれ、船乗りたちの信仰を集めた。天妃宮とは、そんな天妃様の像が祀られていた場所なのだ。何体かの像が祀られていて、ときに中国に向かう船に持ち出され、船上のお守りにもなっていたという。

ちなみに、このあたりには「上天妃宮」と「下天妃宮」が並んで建っていた。目の前に残されているのは上天妃宮の石門であり、下天妃宮は現在の「那覇市西消防署」あたりにあった。かなりの規模を誇っていたことがわかるのではないだろうか。

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