国立代々木競技場は1964年の東京オリンピック時に建てられたもの。50年以上前の話である。それなのに「まるで古さを感じない」とすれば、なぜだろう。

注目はやはり曲線美。まだコンピューターも発達していない時代である。すべてを手計算で設計したと思うと信じられない、と現代の建築家たちは賞賛する。それも、当時としては最大規模の「吊り屋根」へのチャレンジだった。会場に一体感を与えるために内部は無柱空間がいいと考えたからだ。そして、第一体育館は2本の大きな支柱に全長280mのケーブルを渡して屋根を吊り上げた。その形は日本の神社仏閣で見られるような伝統的な屋根の形に行き着いたのであった。

建築の世界では、建築家がいて、構造設計家がいる。それぞれの仕事が分業になっていることが多いのだが、この建物は建築と構造が見事なまでに融合している。構造による建築美。例えるならば、化粧のないすっぴんの美しさとでもいえようか。さぁ、建物のまわりをぐるりと歩いてみてほしい。見る場所によって少しずつ形を変えながらも、気が付かぬうちにヒョイと元の位置に戻っていたりする。そんなエッシャーの騙し絵のような驚きが待っている。


写真:村井修

Next Contents

Select language