山々に囲まれ、風もなく、川とも繋がらないその池には流れがなく、湖面には木々が映りこんでいる。とても穏やかでありながら、神秘的な雰囲気を漂わせている御射鹿池。その側にある諏訪大社では、かつて、75頭の鹿の頭を供える「御頭祭(おんとうさい)」という祭事が行われていた。

日本では神獣とされている「鹿」を、人と神で食す。
美しい風景の背後には、このような不思議で複雑怪奇な文化が存在している。

「その池はまるで、見ている人の心を映す鏡のようでもある」

そう語るのは、この作品の作者・湯浅克俊。池の持つ「神秘性」、そして美しい景色の中に秘められた「物語性」に触発され、湯浅は、この池を木版画にすることを決めた。

木を削り、紙に写し、たくさんのイメージを作り出して、情報を多くの人に届ける。木版画は、最古の版画技法であり、情報メディアだ。最先端の情報メディアといえば、インターネットやSNSだが、それらとは違った時間軸で景色・情報を捉え、まるで写真のようにリアルで美しい木版画として再現した。

これは、ひとつのアート作品であり、見る人の心を映す水鏡だ。

この作品の、御射鹿池の向こうに、一体どんな自分が見えるのか。自分自身の心をじっくりのぞき込むつもりで、作品と向き合ってほしい。

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