この作品の作者、飯田竜太は「本」を素材に彫刻を作るアーティストだ。彼もまた多くのアーティストと同様に芸術大学の出身。そこでは、木や石、鉄などが素材として選ばれ、学生たちはカリキュラムにのっとって製作を進める。

学生時代の飯田は思った。「木や石でなく、意味を持った素材で彫刻ができないか」と。もともと純文学好きで、あえて古い出版当時の版で作品を読むこだわりを持っていた。電子デバイスとは異なる、ページをめくる動作や手触り、においなど、紙の本ならではの五感を伴った「読む」動作を飯田は愛している。

そのような背景から生まれたのが、今回の作品だ。

彫刻を作るならば、素材の持つ質感や、物質としての特性は無視できない。素材が持つ存在感は、作品にそのまま表れる。だからこそ飯田は、精緻な技術によって本を切り刻み、それらが有する文字情報や、様々な記号、装丁までをも一部とし、新たな「立体作品」を本の中から彫り出す。

まっさらな白い空間で展示を行うのは、観客一人一人に作品と向き合ってもらうためだ。飯田は空間の強さに負けないように、作品そのものに迫力を持たせ、力強く見せられるよう挑戦した。まさに真っ向勝負である。

「遠くから見たときと近づいて見たときの、見え方の違いも楽しんでほしい」と彼は語る。近くで見れば、印刷された文字がこちらに訴えかけ、遠くから見れば造形物としての面白さを発見できる。それは油絵のマチエールのようなもの。平面的な画像ではない、本の持つ物質的な存在感を感じることができるだろう。

飯田の手によってアートに昇華された書籍の姿。情報を得るだけではない、より身体的な「読む」という動作に向き合い、その行為の意味について改めて感じてほしい。

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