この敷地のことを「古殿地」という。伊勢神宮では20年に一度、社殿を新しく建て替える「式年遷宮」がおこなわれている。そのとき、この古殿地に真新しい社殿が建てられる。つまり、伊勢神宮の正宮は20年おきに移動する。古殿地の中央にポツンと佇む小屋は、以前の正宮の中心にあった「心御柱(しんのみはしら)」を守るためにあるという。

ところで、「神宮」とは神の住む宮と書く。「みや」とは、もともと「庭」であり、やがて庭に建てられた「御屋」であるという説もある。伊勢神宮ではさまざまな祭りが建物の外にある庭でおこなわれるが、神社の原点とは森の中にある庭だったのかもしれない。

伊勢神宮では1年のうちに1500回もの「祭り」がおこなわれている。その約半分が「日別朝夕大御饌祭」。ここ外宮で、毎日(=日別)、朝夕の二度、天照大御神の食事(=御饌)をお供えする祭りである。

それは、神輿を担いで賑やかに盛り上がるような祭りではない。

前日から外宮に泊まって身を清めた神職の人たちは、翌日の朝早くから井戸に水を汲みにいく。そして、木を擦りあわせて火種をつくり、かまどに焚べてお米を蒸す。このような1500年前と変わらないやり方で、米、水、塩、海の幸、山の幸などを用意していく。その行為こそが「日別朝夕大御饌祭」であり、外宮が生まれた1500年前から1日も欠かさずおこなわれてきた祭りである。

それはたとえ未曾有の災害に襲われた日も。最近でいえば、伊勢湾台風で町が水没した日も、戦時中に爆弾を落とされた日も「きょうは中止にしましょう」とはならなかった。むしろ、そんな日ほど祭りが必要だったのかもしれない。

日別朝夕大御饌祭を通して祈られてきた願いとは「国安かれ、民安かれ」。国家の平安と、国民の安寧を祈ることだったのだから。

──つづく

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