神宮の森の奥には「上御井神社」がある。まつられているのは水の神様。御神体は井戸である。
日別朝夕大御饌祭では、毎日、神様にお供えする水を上御井神社で汲んでいる。神聖な水であり井戸なので、神職の人たちは水面に自分の姿が映らないよう畏れ敬いながら慎重に汲んでいるという。
とはいえ、上御井神社にあるのは自然の井戸。ときには水が枯れている日もある。枯れていたから水はナシで、というわけにはいかないのが日別朝夕大御饌祭である。そのための予備の井戸として、この「下御井神社」がある。よく見ると下御井神社でも井戸を御神体としているのがわかるはずだ。
ちなみに、当日の水汲みが終わるまで、前日の汲み水も保存してあるという。徹底されているのは、祭りを決して途絶えさせてはいけないという想い。日別朝夕大御饌祭が、実際に1500年ものあいだ途絶えなかった理由は、こうした細部に宿るといえるだろう。
このようなリスクヘッジは水だけではない。伊勢神宮の敷地の中には、およそ3ヘクタールの「神宮神田」があり、お宮の人たちが田んぼを育てている。台風に襲われてお米が獲れなかった。稲の病気が流行って全滅した。そんなことは決して起きてはならない。そうならないように稲の品種や植える時期を変えて育てているのである。