鳥居をくぐる前に「一礼」を。鳥居とは神域との境目をあらわすもの。これより先は神様がいる聖域なので「敬意をこめてご挨拶を」というわけだ。

あなたは宇治橋を渡り、「神苑」と呼ばれる庭園を抜けてここまで来た。しかし、庭園ができたのは最近の話。明治時代になるまでは、このあたりにも町屋が所狭しと並んでいた。これらの町家は火を取り扱っていたので、万が一、火事が起きると神宮に燃え移ってしまう。そうならないように溝を掘り、水を流して橋をかけた。これを「火除橋」という。振り返ってみてほしい。あなたが今、渡ったばかりの橋のことである。

この「火除橋」と「第一鳥居」こそが、昔ながらの神域との境目。庭園はきれいに整備されていたかもしれないが、ここから先は人間が手を触れてはいけないような神の森のはじまりなのだ。

地面に「玉砂利」が敷かれていることに気づいただろうか。

玉砂利があることで水はけがよくなり、水はねもなくなる。それに雑草も生えにくい。常に清らかで清潔な参道が保たれているのは玉砂利のおかげだ。

ざくざくざく、と、玉砂利を踏みしめる音に耳を澄ませてみてほしい。その音はどんなふうに聞こえるだろう。聴こえるのは自分の足音だけではない。人によって異なる音色は、それぞれの心の音のよう。人間には魂という玉があるという。玉と玉がふれあうことで心が研ぎ澄まされていく。「ざくざくざく」という音のシャワーはまさに心が清められていく音なのかもしれない。

伊勢神宮に参拝することとは、正宮でお祈りすることだけじゃない。第一鳥居をくぐる前に一礼をして、玉砂利を歩きながら心を整えていくこともそう。お参りはもうはじまっているのだ。

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