中津渓谷は水が6万年かけて彫刻した芸術である。

素となる岩盤は約1億7千年前のチャート=0.1mmほどのプランクトンが海底に降り積もってできた岩石。1cmできるのに1000年かかるといわれ、堆積していく途中で「鉄分」が混ざると「赤色チャート」になる。それがなんらかの理由で隆起してここにある。

そこを流れているのは中津川。パラグライダーで有名な「吾川スカイパーク」のある中津明神山。そこから流れ出した水が、中津渓谷を削り出したのちに仁淀川に合流する。

まさに大自然の造形美。世にも珍しい中津渓谷を歩くグリーンツアーを楽しもう。遊歩道に沿って歩いていけば、さまざまな地形や植物をはじめ、龍が吐く水といわれる「雨竜の滝」や、全国でも珍しい「石柱」など、ホワイトキューブでは決して見ることのできないアートが待っている。

1|赤色チャート

「03」で石拾いをした人にとっては感慨深いかもしれない。ここで削り取られた「赤色チャート」は中津川を転げまわりながら仁淀川と合流。さらに流されていくうちに砕かれて小さな石に。それが下流で拾える五色石のひとつとなる。そもそも「石」と「岩」の違いを知っているだろうか。人が持ち上げることができるのが「石」。持ち上げられないのが「岩」である。

2|パッチン

岩にびっしりと張り付いている「マメヅタ」。まんまるの葉っぱを1枚ちぎって、指で折り曲げてみてほしい。ふたつに割れる瞬間に「パッチン」といい音がなるはずだ。地元の人たちは子どものころ、この音を鳴らして遊んでいたという。

3|雨竜の滝

「竜吐水」と呼ばれる落差20mの滝。滝壺の深さは5mにもなる。春から秋にかけて、2時ごろに虹が見られることがあり、こちらは「2時の虹」と呼ばれているとか。

ぼくたちが訪れたときには、ここから見える川の水がどんよりと濁っていた。「なぜ?」 案内してくれた地元の方も驚いていた。翌日には「中津渓谷の水が濁っている!」というニュースがあっという間に知れ渡り、関係者を中心に地元の人たちも少し慌てていた。原因を究明した結果、上流でおこなわれていた工事が原因だと判明した。幸いなことに中津渓谷の水はもとの澄んだ水に戻ったが、川の繊細さや、地元の人たちの川への関心の高さが印象に残る出来事だった。

4|石柱

高さは雨竜の滝と同じ20m。こんな狭いところにこれほどの高さの石柱が見られる場所は日本全国でもあまりない。増水時の激しい水の流れが、巨岩を裏からくり抜いたものと見られている。石柱をよく見てほしい。ある高さを境にコケがない。増水時はそこまでが水に浸かり、激流にコケが洗い流されたと考えてよいだろう。

5|コウゾの木

見つけるのは難しいかもしれないが、これがコウゾの木。和紙の原料となる木である。昔はこのあたりでもたくさん育てられていたのだろう。植林が進んだこともあって、だいぶ数は減ってしまったが、このような野良がたまに残っていたりする。

ぼくはこのコウゾの木を「自分の木」とすることにした。あなたも気になる木をひとつ、定めてみてほしい。写真に撮って、次に来たときにどうなっているか。様子を見にくることもまた旅の楽しみではないだろうか。

高度経済成長期のころ、赤色チャートは「仁淀川の赤石」と呼ばれて「庭石」として誰もが欲しがって持っていくような石だった。
古いチャートの割れ目には「マツバラン」という植物が生えていて、シダ植物の中でも最古の部類の生きた化石。いわば、シーラカンスのようなものですな……などなど、

中津渓谷を案内してくれたコーチはあらゆる地形や植生について教えてくれた。とくに植物の種類は計り知れない。年中見られるとは限らないのでここで紹介はしないが、中津渓谷はぜひ現地の人間のガイドさんに案内してもらうことをおすすめしたい。

ぼくたちのコーチは最後にこんな話を聞かせてくれた。

「仁淀川にはありとあらゆる魚がおった。ドジョウ、ゴリ、ハゼ、ウグイ、タカハヤ……ショウハチという赤い魚もおったな。その赤い魚なんかはまったくおらんなった。大渡ダムという大きなダムがあるけんども、あれができてから赤潮のようなプランクトンの異常発生が毎年起こるもんだから、魚も植物もおれるようなもんじゃない。とくに、アユは住む環境がモロに体に染み込む。アメゴは染み込まんけど、アユだけはなぁ。大渡ダムから下流10kmは泥臭いばかりで食べる気にならん。とくに釣りたてを塩焼きで食おうという気はおこりません。川の水量はそんなに違わんけんど、目に見えないところで変わっちょる。これは正直なところ。」

生きた話は生きた人から聞けるもの。ばくたちのガイドに書かれていることが本当かどうかをふくめて、あなた自身の目で確かめてみてほしい。

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