先人の技術を受け継ぎながら、業界は新しい1歩を踏み出していく。
1階表示はアクリル板をくり抜き、そこにけずり出した金属をはめこんでいる。完成した製品はあまりに精度が高く、金属とアクリル板の間にすき間が確認できない。
この工程を担当したシナノ産業株式会社は、プラスチックの切削加工を専門に行っている。精密な加工に定評があり、大学の研究室や、企業の研究開発用の試作品などの依頼も多い。
同社の工場長を務める古澤さんは30代で、メンバーに女性も多数在籍している。
軽量な樹脂加工に力作業は必要ない。むしろ女性的なきめ細やかさが加工に活かされ、工場が整理整頓されるなどメリットは多いと聞く。
古澤さんは技術開発にも積極的で、緻密なくり抜きが施された試作品を見せてくれた。
金属を削るのも、樹脂を削るのも使用しているのは同じ工作機械だが、材質が変わると求められるノウハウも変わる。
そこで、自らが失敗しながら学んだデータを集め、加工に活かしているという。加工データは長年の蓄積のたまもの。先人から受け継いだ同社の強み、というわけだ。
近年では町工場の役割が変わり、試作品の製作や、精密製品の製作などが求められるようになった。シナノ産業のように確かな技術を持つ工場は変わらず残り続けていくはずだ。
戦後に最盛期を迎えた大田区のものづくりは、世代を積み重ねながら次のフェーズへ向かっていくのだろう。