階段を昇って《展望デッキ》へと出てみると、熊楠が研究したフィールドが見渡せます。田辺湾に浮かぶ神島、その向こうには熊楠が暮らした田辺の町。そしてさらに向こうに見えるのは熊野の山々です。

熊楠の名前の由来である熊野の「熊」は、暗闇を意味する「くま」であるとも言われています。その名の通り、らんらんと輝く熊楠の目は、じめじめと暗い陰の世界を追い続けていました。彼の関心は20代の前半から、「顕花植物」ではなく、キノコ、粘菌、コケ、シダ、藻のような「隠花植物」に向けられていました。わかりやすく花を咲かせる顕花植物とは違い、隠花植物は重要な器官をあからさまに見せることはありません。森羅万象の秘密は目に見えないところに隠されているのです。

熊楠は「あるもの」と「あるもの」の境界線を見つめ続けます。東洋と西洋。動物と植物。男と女。生と死。自分と世界。夢と現……。両方の極限が絡まり合い、混ざり合うその場所にこそ、宇宙の秘密が存在しているのです。

熊楠の視点を借りると、目の前に広がるこの世界が、今までとは違ったものに見えてきます。「南方学」の探訪は、まだまだ始まったばかりです。

Select language