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春日雜題(巻一)
東風陣々拂窓紗。甘雨新晴天氣嘉。
不覺露萃霑両袖。携籃畦上摘茶芽。
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訳:春の風が、窓のおおいを揺らしている。甘雨が草木に恵みをもたらし、明日の晴天を告げている。ふと気づくと草むらの露が両袖を濡らしていた。籠をたずさえて、畦の上の茶を摘みに行く。
庭園の一番奥に佇む地蔵様。その手前には、白い石の山が太陽の光を受けて神々しく光っている。地蔵の前に石を積む文化は日本各地で見られるが、ここは石を投げてお参りをする「石投げ地蔵」だ。日本で唯一と言われる独特なお詣の方法はその昔、庶民が願い事を書いた小石を、朝昼夕、園外から投げ込んでお参りしていたことに由来する。
地蔵とは「大地の母胎」。大地がすべての命を育む力を蔵するように、地蔵は苦悩の人々を慈悲の心で救ってくれる菩薩だといわれている。色々なものに姿を変え多方面で人を助けてくれる存在に、人は手を合わせ、様々な願いごとをする。
本来であれば日常的な景色の中、道の傍にそっと佇んでいるはずの地蔵が、庭園の内側に入り気軽にお参りできなくなってしまった時、人々は石に願いを込めて投げ入れるというユニークな行為を思いついたのではないか。
ひとつ投げ入れると、コンと軽い音がなる。
自分の願いが、数多くの人たちの願いの上に重なる音だ。