その昔、釈迦は座禅によって悟りを得たと言われています。そして時が経ち、紀元後520年ころ。南インドの王朝の第三王子だった、菩提達磨が禅を世の中に普及させます。
彼が仏教と、そして禅の礎となる考え方を広めるため中国に渡中。その後に、中国より日本へ禅文化が伝来されたのが鎌倉時代と言われています。これが、時代背景とともに日本独自のカタチに変わっていくのです。
武士が活躍する鎌倉時代は今までとは違い、戦いが多く、つねに死と隣り合わせ。ちょうどそんな折、宋時代の中国へと渡り、禅を習得した栄西が臨済宗、道元が曹洞宗を開き、たくさんの人がその教えを請いに集まります。戦が多く、心の不安を抱える人たちで溢れていたため、その不安を解消するためにも禅が広く受け入れられたのです。
そして時が過ぎ、江戸時代になると、中国から来日した隠元が、中国の修行法を用いた黄檗宗を開きます。近代では、夏目漱石や島崎藤村なども禅に興味を持っていました。そして国外には、鈴木大拙が海外で禅を広めるためにさまざまな国で講演をし、海外の人向けに禅にまつわる書物を書いています。
アメリカでは、行き過ぎた資本主義に意を唱える流れも相まり、1950年代にケルアックやスナイダーなどのビートニック詩人たちが禅の魅力に関心を寄せます。
鈴木大拙がアメリカで講演をしている際によく受講していたのは、スナイダーなどのビートニック詩人以外にも、音楽家のジョン・ケージ(とくに四分三十三秒の作品、ただ無音を聞くという音楽は影響を受けたと言われている)や建築家のバックミンスター・フラーなどがいました。そして禅を世界に広めたもう一人の鈴木が、鈴木俊隆。彼の書いた「禅マインド ビギナーズマインド」は、スティーブ・ジョブズの愛読書とも言われているほど。
昨今では、MITのジョン・カバット・ジン教授がマインドフルネスセンターを創設し、禅の教えと西洋医学を融合させて、ストレスや悩みごとを解消するためにマインドフルネスを啓蒙しています。
そして今、シリコンバレーのスタートアップから、あるいは、世界的な企業のGoogleやAppleで、マインドフルネスが注目を浴びているのです。なぜ、彼らが禅に注目したのか。資本主義や物質主義を追うのではなく、自分たちの心の中の充実を求めるために、禅にその答えを求める人が増えているのかもしれません。他力本願にするのではなく、自力で答えにたどり着くこと。そんなところも、禅の一つの魅力なのかもしれません。