雪を払う

雪を払うのは、落ちた花びらを払うのと同じように風情のある情景のひとつとされ、さまざまな歌にうたわれている。しかし雪は雪でも、大雪を払うのは、そのように風雅なものではない。

初雪が積もったのをそのままにしておくと、さらに雪が降り積もって3メートルを超えてしまうこともある。そんなわけで、一度降ったら必ず一度払う。これをこの地方の言葉では「雪掘り」という。払うというより、土を掘るのに近いのでこのように呼ぶのだ。掘らなくては家の前の道は塞がり、家も埋まって人は出られなくなってしまう。頑丈な家であっても、雪の重さに押し砕かれるのを恐れ、雪掘りをしない家はない。

雪掘りには木で作った鋤を使う。この道具は木鋤と呼ばれる。粘り強くて折れず、なおかつ軽いブナの木でできている。形は通常の鋤に似ていて刃は広い。山間部の住人がこれを作り、里の住人に売る。雪の降る間もっとも大事な道具となるので用意しない家はない。

掘った雪は空き地の、人の邪魔にならないところへ山のように積み上げる。これを「堀揚」と呼ぶ。金持ちの家では若い使用人が総勢で、それでも力が足りなければさらに堀り手を雇って、何十人もの力を合わせて一気に掘り尽くす。このように一気に掘るのは、掘るうちにまた大雪が降れば、たちどころにうずたかく積もり、人の力ではどうにもできなくなくなってしまうからだ。

このように大勢で一気に掘れるのは金持ちの家のことだ。貧しい家では掘り手を雇うこともできないので、男女問わず一家総出で雪を掘る。私の里に限らず、雪の深いところではみなそのようにしている。雪が降る度、このように力をついやし、銭をついやして一日中掘った後、その夜もまた大雪が降り、夜が明けてみれば元のとおり、なんていうこともある。こんなときには主人はもちろん、使用人も頭を垂れて溜息をつくだけだ。雪が降る度に掘るので、この地方では「一番堀」「二番堀」と呼んでいる。

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