「さらし屋」という専門の職業がある。縮を織った家でさらすこともあるが、それはまれなことだ。さらし屋は、その家のほとりか、またはちょうど良い場所を見繕い、そこに仮の小屋をつくる。これは物置きや休憩の場所ともなる。「さらし手」と呼ばれる職人は男女入り混ざり、機織り女のように身を清める。さらすのは正月から二月中旬にかけての仕事だ。この時期はまだ田畑も一面の雪景色なので、その上をさらし場とすることもある。日中、さらし場に踏んだ後がついてしまうと、手頃な板に柄をつけた物で雪の上を平らにならしておく。そうしなければ夜のうちに凍りつき、踏みしめた形のまま岩のように固まってしまうからだ。さらし場には一点の塵もなく、まるで白い砂浜の塩田のようにも見える。
白縮は織ったままの状態でさらし、それ以外の縮は糸で作った「かせ」にかけてさらす。「かせ」とは、細い丸竹を1メートルほどの弓状にして、その弦に糸をかけたものである。この「かせ」ごと、竿にかけわたしてさらすのだ。白縮は平地の雪の上にもさらす。また、高さ1メートルほど、長さは布に合わせ、横幅は適当にこしらえた土手を雪でつくり、その上に縮を並べてさらすこともある。そうしなければ犬などが踏み越えて、縮を汚してしまうからだ。ここにかせを並べてさらすこともある。その場所に合わせたやり方を選ぶので一通りではない。
さらし方だが、縮でも糸でも、まずは一晩灰汁に浸しておく。翌朝何度も水で洗い、絞り上げてから、先ほどのようにさらすのである。貴重な縮をさらすときはこれらとは異なり、別にさらし場をもうけ、常に用心してさらす。これは機を織るときと変わりない。私の国では、地面の下の水気が雪のあるために蒸発しないので、雪の季節のうちに雨が降ることはまれだ。春はさらに雨が少ない。日にさらす間は晴れの続くこともある。
さて、灰汁にひたしてはさらすという、毎日同じ作業を繰り返して幾日かを経て、白々となったところでさらしの作業は終わる。さらし終わりの近づいた白縮をさらしていると、朝日が赤々と昇り、白い布の上に並んだ水晶のような雪のしずくが赤く染まる。そんな景色は、何ものにもたとえようのないほど美しい。このような光景を温かな国に棲む風雅な人に見せたいものである。縮をさらすにはさまざまな作業があるが、ここではその大略だけを説明するのみとした。