目の前のジオラマは沖縄の北部に広がるやんばるの森を再現したもの。訪れる人が実際の自然の中でも動植物を見つけられるようにと、森の生態系を忠実に再現している。
さて、このジオラマにはヤンバルクイナという鳥がいる。オリーブ色の翼に、黒と白のストライプの腹。そして赤い嘴。あなたは見つけることができるだろうか? 実はこのヤンバルクイナは日本で唯一の「飛べない野鳥」で、国の天然記念物に指定されている。世界中で沖縄島北部の「やんばるの森」にしか生息していない固有種でもある。
この珍しい鳥の生い立ちには琉球列島の成り立ちが深く関係する。沖縄の島々は、もとは中国大陸や九州と地続きであった。それが地殻変動によって切り離され、海面の変化によって小さな孤島になっていった。
島の中に閉じ込められた動物は、それぞれの島の環境に合わせて独自の進化を遂げた。ヤンバルクイナの場合は、住処であるやんばるの森に天敵となる大型の肉食動物がいなかったことから、逃げるための翼が退化し、代わりに食料としている昆虫やミミズ、トカゲやカエルなどを捕まえるための丈夫な足が発達したと考えられている。
島嶼性という考え方がある。島の面積が小さいほど、そこに棲める生物の種類は少なくなる。限られた土地で生き延びるために、動植物は必要な能力を身につけ、いらない機能を捨ててゆく。飛ぶ機能を手放し、大地で生きる力を伸ばしたヤンバルクイナはその象徴とも言えるだろう。
一方、琉球列島全体でみるとそこは多様な固有種の宝庫。かつて大陸と地続きだった琉球列島には、ガラパゴスのように海の底から孤立して、隆起した島と違い、はじめから多様な動植物が存在した。それらが島ごとに異なる自然環境に適応し、さらに多様な種に分かれていったのだ。
ここには、そんな琉球列島固有の生態系の一例として、沖縄島北部のやんばるの森、西表島、宮古島の生態系が再現されている。昼と夜でも動物たちの様子は違う。ジオラマで眼を養い、博物館の外に広がる実際の自然にも目を向けてみてほしい。