1つ目の視点場:ベストスポットはここにあります

野山と庭の違いはなんだろうか。それは「見るべき視点が設けられているか」どうか。ここ無鄰菴には、景色を構成する中心となる視点場。つまり、庭をどこから見るかを示す場所がいくつかある。

庭には、訪れた人を視点場へ誘うために、それとなく設えられた造形やしかけがある。それはつまり施主からのメッセージだ。

まずは音声を止め、何も考えず庭へと歩いてほしい。目の前に母屋と小川が現れ、両足で乗れる程度の飛び石にたどり着いたらガイドを聴いてみよう。

下を見ながら飛び石の上をしばらく進むと、足元に人工的に丸く形成された石が見えるだろう。この石は無鄰菴の中で重要な視点場のひとつ。つまりはベストスポット。この石は伽藍石と言って、お寺の礎石を模している。

ここからは施主山縣有朋が庭園の中心と考えていた雄大な東山が望める。庭師も外周の木の手入れの際は、最後にこの伽藍石から借景の見え具合と庭園内のバランスを確認するという。

飛び石は客人の体の動きをコントロールすることで、同時に視線をコントロールしている。歩くためには足元を見なければならない。形や大きさの異なる飛び石をあえて連続して設ければ、意図的に客人の視点を下に向けられる。安定した石が現れると、人は自然と視線を上げる。すると、目の間には完璧に構成された景色が広がる。ちょうど見通しの悪い廊下を抜け、ひらけた場所を見るときのように、驚きは増幅されるはずだ。

それは「どうぞここから庭を見てください」という亭主のメッセージ。無鄰菴は見る場所で大きく姿を変える。

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