園路を進むと左手に松が見えてくる。この松を見ると、不可思議なことがある。青々としていて、枯れた葉が1本もない。自然に生える松にこのようなことはありえない。一体どういうわけだろう?
松は庭木としての歴史が長いだけに、その手入れもスタイルとして確立している。年に2回の大きな手入れ、春の芽摘みと秋の葉むしりは欠かせない。
春の芽摘みは4〜5月に行う。10㎝ほどに伸びた芽を1~2センチほど残してひとつずつ手で摘み取る。これは庭木が大きくならないように調整をするためと、夏にむけて葉が増えすぎないようにするためだ。
京都の剪定は「すかし」と言って、木々の向こう側が透けて見えるぐらい軽やかに仕立てることが多い。こうすることによって、庭の奥の方まで空間が続いていることが見て取れ、気持ちの良い景色が生まれるのだ。すかしのためにも、春の芽摘みは欠かせない。
秋の葉むしりは、11月から年末にかけて行う。こちらは寒くなって茶色く変色する松の葉を手でむしり取り、青々とした様子を保つために行われる。毎年欠かさずこの手入れを行っているから、無鄰菴はどの松もすっきりと明るい印象を保っているのだ。
広い芝地にはゴールデンウィークの頃はすみれをはじめとしたいろいろな野花が咲く。これは有朋の自然趣味を汲んだ管理を現在でもしているから。約30種類の野花を剪定し、増やすもの減らすもの、完全に取り除くものと3部類したうえで、2月ごろから手でひとつひとつ除草を行っている。
無鄰菴では万事がその調子で、人の手が入っていない箇所はほとんどない。