茶室とは、一体どんな空間なのだろうか。一見、とてつもなく質素なこの空間が、茶人たちを惹きつけてやまないのはなぜだろう。

ここ、旧近衛邸は、その名の通り、京都の近衛邸にあった書院と茶室を平成7年に移築したもの。近衛家は代々、朝廷に使える公家だった。そのため、この茶室は、武家や町人の茶室とは少々趣が異なるものの、基本的な構造は同じである。

まずは、どの茶室にも共通する部分を見ながら、その雰囲気を味わってみよう。入り口から左奥にあるスペースは、「床の間」と言って、客をもてなすための書やお花を飾る空間である。床の間に飾る掛け軸は、禅の言葉や漢詩の一節などを書いたものが多く、季節や茶会のテーマに合わせて選ばれる。ここに掛かっているのは、「行雲流水」という言葉だが、そばに置いてある説明書で、その意味をじっくり味わって欲しい。掛け軸と同様、花もまた、季節などに合わせて亭主が花の種類や花入の組み合わせを考えて、飾るのだ。

公家ならでは茶室の特徴として挙げられるのが床の間。旧近衛邸の茶室は、床の間が一般的なものより少し高くなっている。理由は定かではないが、公家という立場ゆえ、天皇家からいただいた書などを床の間に飾る機会があったからかもしれない。少し座を高くして、ありがたく飾らせていただく、というわけだ。

さて、こうして見ていくと、床の間の飾りひとつ取っても、茶会を催すにも参加するにも、禅や漢詩、書、花や花入の種類など、広い知識を求められることがわかるだろう。これに加え、徳川美術館などで見てきた、お茶を点てるための道具や器があるのだから、亭主は大変である。茶席を構成する要素は多く、その組み合わせも無限大。茶室自体が質素だからこそ、そのしつらえや道具の組み合わせで空間を自由に演出することができ、亭主の腕の見せ所となる。そして、探究心が続く限り彼らの学びが尽きることもないのだ。

さて、茶室にもうひとつ欠かせないものが、「炉」である。「炉」とは、床に開けた30センチ四方ほどの穴で、冬の間は、この炉の中に炭を起こし、お茶を点てるための湯を沸かす。大抵の茶室では、炉の部分だけ畳に正方形の切れ目があり、「あの辺りでお茶を点てるのだな」とわかるので、注意して見てみてほしい。旧近衛邸では絨毯の下に隠れているが、入り口からすぐの左手にある。

千利休は、お湯がふつふつと沸き、お茶を点てるのにちょうど良い頃に釜から聞こえてくる音を、「松風」に例えた。松林に風が吹くような音、という意味で、とても詩的な例えだが、仄暗い茶室でお湯の音に耳を傾け、言葉を交わさずとも「あ、そろそろ沸いてきたな」と、主客ともに静かに胸をときめかせるのもまた、お茶の醍醐味なのである。

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